丕緒の鳥を久しぶりに読みました。
番外編だと安易に括るのは違うよなぁ。この十二国記シリーズでは、スポットライトを浴びる主人公が事あるごとに変化するというのが持ち味の1つなのだから。新潮社から刊行されている最新刊までの推移をみると確かに「慶国」と「戴国」の二国に主軸を置いているのは間違いじゃないだろうけど、それぞれの物語の紡ぎ手の視点の移り変わりが今昔の他国の出来事も絡めて長い長い歴史小説のような奥行きを感じさせてくれるように感じます。さすがは群像劇の魔術師?ですよね。ただし、この『丕緒の鳥』は短編小説を集めて構成されているので複雑な世界設定を熟知している人向けなのは仕方がないですね。もう一冊の短編集『華胥の幽夢』も同様。やはり十二国記ビギナーには1巻完結の『図南の翼』をおすすめしたいと思います。(最初に珠晶や利広のファンになってしまうとシリーズ全体の登場数の少なさに驚くだろうけど、何度読み直しても色褪せない名作です。🤗
脇役が主役。つーか全員が主人公。
脇役が魅力的過ぎて自然と感情移入してしまう。官も民も逞しい…というより生々しい。
好きな登場人物に活躍してもらいたいファンの気持ちも(とてもよく)わかるんだけど、愛読者の1人としては出された御馳走を皿まで舐め尽くしたい…?著者である小野不由美さんが創り上げた世界をそのまま素直に受け取りたいのですよ。感謝とともに。彼女の作品と共に●十年齢を重ねてきたワケですから、推しのあの人が出てこなかった!!ココはこうしたら良いのに!!!なんて、みっともねえ事は口が裂けても言いたくないんですよね。…本当は飛燕が死んで悲しいので天の条理を曲げて蘇らせてください!!とか、大いに叫びたいけど…
そこは(¯―¯٥)自制心を持って然るべき
『落照の獄』それは救いのない物語
非常に珍しいことだと思います。小野先生の全作品を読破している訳ではないけれど、大抵の物語の最後では光明が差す終わり方をするので(そこが魅力でもあります。)最初から最後まで鬱々と曇りっぱなしの短編『落照の獄』はいつもとは違う感覚で読み進めることが出来ました。刊行当時の賛否両論も思い出しつつも、やはり死刑制度に対する問題提起のような異色の内容には私達が生きる現実世界への含みを感じずにはいられません。鬱々と悶々とした苦渋・苦悩のトンネルを抜けてスッキリした結末にたどり着けたのは悪党だけだったというね。現実でもあり得るシチュエーションだからこそ、読者の心に引っ掛かりを残し悪党の笑い声が耳元で響く嫌悪感で後味最悪の読後感を与えてくれます。同時収録の3編が小さくても明るい希望を見出だす終わり方なのとはあまりに対照的だと思います。政治的なテーマは嫌われがちですが私は大好物ですよ。死刑制度や犯罪者の教化については思うところがあるのが現代人なら当然ですからね。黥面復活大いに良し‼️もしも現実世界に当てはめるとしたら、GPS付きのチップを脳に埋め込むとか?生ぬるいんだよなぁ~。🙄
重犯罪者はそれと判る刻印をクッキリ・ハッキリ・カラフルに入れて欲しい。むしろ💩マークが相応しいのでは?犯罪の抑止力になるかどうかはやってみて統計を取らないと誰にもわかりませんよ?
何度も読み直す『青条の蘭』
樹木の奇病を発見するところから始まって、病を治す薬の素材を探すという地味で真っ直ぐなストーリー。それもおじさん?達が数人でわちゃわちゃと…という輪をかけた地味さに最初はまったく惹かれなかったのですが、何回も読み返すうちに一番好きな短編になるのだから侮れませんね。作中のおじさん達よりもお姉…オバサンになったからなのかも知れませんがね。それにしても良いよね!おじさん達の友情もさぁ。薬の原材料である「青条」と名付けられた蘭を王の元へと運ぶ長く危険な道中、ついに身動きならない状態まで追い込まれてしまった彼は人目を憚らず泣き声をあげてしまいます。事情を知らない周囲の人達は何を大袈裟なと不思議に思いながらも、彼の大切な荷を引き継ぎ目的の地まで運んで行く事を請け負います。行けるところまで行ったら次の担い手に引き継いで、そのまた次の担い手へと善意のリレーは繋がっていって…。善意というより“情け”といった方が近いのかもしれませんねぇ。他人に構う余裕などないはずの過酷な環境を生きている赤の他人が、それでも人を見捨てられずに手を差しのべる。進んで差しのべようとする人間味にあふれた行動。誰も知ることなく運んでいる「青条」に込められた国と民を救いたいという願いや祈りや希望が、民自身の手によってそれを叶えてくれる唯一無二の王の元へと運ばれて行くという物語の結末はとても美しい流れだと暖かい気持ちで読み終えることができました。おじさん達の苦労が報われて本当に嬉しいですよ。絶望に泣いた彼の心境を考えたら思わずもらい泣きしちゃったもんねぇ🥺 豪雪・猛吹雪の風景から「戴国」の物語だと思わせておいて、実は王が登極する前後の「雁国」でしたーっていうのも効果は絶大でしたね。あの延王ならば…彼ならば必ず民の声に応えてくれるに違いないという信頼感が凄いです。なので最後のシーンでも頑張って良かったね!報われて本当に良かったね!と素直に喜べました。この没入感も堪らんのよ…
灰色の雲間から差し込む光芒のような読み味がクセになるんだよなぁ…
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