結束した人間の無慈悲さに恐れ戦く哀れな者どもを指差して嗤うがいい
これは言うなれば狩猟なのだろうか?いや、害獣の駆除がより正しい表現なのかも知れない。仕留めた獲物の数を数えるのはどちらも同じことだが…。─────自分達に危害を加える共通の敵を討伐せんとする人々の結束を甘く見すぎた当然の結果だろう。もとより屍鬼どもは実際には脆弱な生態をしており、夜陰に乗じての奇襲が功を奏していただけに過ぎない。尾崎敏夫を中心にして急造された屍鬼討伐隊は素晴らしく良く機能していて、それも至極当然のことであり元からある村の組織を最大限に活用しているからなのであった。言うに及ばず全ての村民達が組織の一員として組み込まれているのだから、そこより溢れた異端者を追い詰めることはそう難しいことではないのだ。屍鬼どもの襲撃を警戒して常に数人の班で行動しながら交代で村内の捜索にあたる。以前はただの噂だと歯牙にもかけなかった怪しい人物の住処なども徹底的に調べあげていき、神社の境内には小山のように杭を打たれた死体が積み上げられていった。そこには屍鬼に混じって桐敷正志朗の無惨な残骸が無造作に置き捨てられていた─────。
………沙子ちゃんが悲しむねぇ。正志朗さんは人として歪んではいたけど、沙子ちゃん達と出逢う前の境遇を考えればそんなに嫌悪感はなかったかな。千鶴ちゃんに一途だったからかもねぇ。彼女の遺体だけでも取り戻したいっていう哀悼の気持ちはわからんでもないからね。やがて朝になると屍鬼達が活動できる時間は終わりを告げ、外場村の住民達による屍鬼狩りは総力をあげて行われることになった。…田舎の結束力凄すぎるやろ。ほぼ強制参加なのか、志願制なのか…知りたくなくて震える。村の入り口と県道の境を封鎖したり、順次交代で休息を取り入れたり、炊き出しまでしたり訓練され過ぎていて人間の土壇場での肝の据わりように感服します。私なら家から一歩も出ねーよ‼️
住民が引っ越して空き家となったはずの家屋の床下や屋根裏、この時期使われていなかった農業用の取水施設、ありとあらゆる盲点を洗い出し文字通り屍鬼を炙り出していく。陽光にさらされて炭化した肉の異臭と、胸に杭を打ち込まれて暴れて撒き散らす鮮血の汚れが白昼の悪夢のようにまざまざと見せつけられる。さながら地獄のようなこの有り様は一体何だというのか─────。屍鬼の首魁である桐敷家の屋敷にも当然杭を手にした狩人達が押し寄せる。すでに裳抜けの殻と見せかけて地下室に潜んでいた室井静信は、“人狼”であり桐敷沙子のもっとも古くからの側近でもある辰巳の最後の願いに応えるため、螺子の切れた人形のように動かなくなった沙子をトランクケースに納めて車に乗り込み脱出を図った。その姿は村民達の目の当たりとなり、寺の若御院が敵に寝返ったという事実を裏付けるには十分な衝撃だった。寺の人間も屍鬼の手中に堕ちたに違いない─────!!疑心暗鬼にとり憑かれた人々は、何一つ落ち度のない静信の母や寺勤めの老婆とその息子を屍鬼と同じ方法で虐殺するという狂気に駆り立てられていった。寺に逃げ帰っていた静信は村人達の凶行の痕跡に戦慄して既に息絶えた母親の死体に懺悔し涙を流すのだった─────。
ねぇねぇ、今どんな気持ちなの~⁉️やらかした静信さんの結末は横に置いといて…。昼間は全く活動できない屍鬼達はお話にならないレベルで不利なのです。辰巳くんの他にも何人か“人狼”は居るのだけど、ここで多勢に無勢、衆寡敵せず、数の正義が威力を発揮するわけです。屍鬼は所詮マイノリティであり、現下の人間社会において存在さえ許されぬ動く骸でしかないのです。死者は最早生きた人間としての枠から外されているのだから、その輪廻と言うか人間社会の営みのサイクルに戻ることなど決してあり得ないのです。それに気付かないのか目を逸らしているのか沙子ちゃんは本当に哀れな人擬きなんだと思います。…死んだ後に目が覚めるなんて想像するのも悍
ましい…土に塵に無に還れますように─────。
安森奈緒は今日二度目の死を迎えた───。陽が暮れて目覚めた瞬間に異常事態であることを察したのだ。一緒に隠れていた仲間達が次々に引き摺られて穴の外に連れ出されて行く…血のにおい…血のにおい…血のにおい…耳をつんざく悲鳴…悲鳴…悲鳴…!!!!!お願い赦して!!私です!!奈緒です!!酷いことしないで!!───何と都合の良いことを口走るのだろう、家族全員をその牙で襲撃して死なせておきながら。奈緒は自分が愛しい家族達と同じ場所には行けないことを思い知った。彼らは誰一人起き上がらずに安らかな眠りについている。自分だけを置いてきぼりにして─────。狩人は獲物の声に耳を傾けたりはしない…見知った知人であったとしてもそれは過去の話だ…暗くて狭いパイプラインから兎か狐のように引き摺り出されていく。何かを打ち付けるようなカンカンという音が段々と近づいてきて本能的に身が竦み震え上がる。穴の外で待ち構えていた狩人達が数人がかりで奈緒の身体を俯せに押さえ込んだ。刹那、視線の端には血塗れの仲間達を積み上げたトラックが映り込み彼女は自分の行く末を悟る───!!!!!前触れも無しに鋭く尖った杭で穿たれた奈緒は絶叫する他になかった。
奈緒ちゃんも安らかにお眠りなさい。
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