バスルームより
はぁー?聞いてないんですけどぉ!?
ムンクだかモンクだかの絵(※有名な『叫び』)に似た顔の女がアタシをガン見してやがるぅ〜
何ぽっかり口開けてんねん(笑)
これってお化けなん!?嘘ぉ。マジでぇ?ウケる。
ガタガタガタッ!!
ムンク女がバスルームの扉を揺すり出す。
えっ?えっ?何コイツ!!
意図が解らなくても不安は光の速さで駆け巡っていくものだ。肩まで浸かっていたバスタブから出ようとした、まさにその時
冷たッ!!
🛁
私の手首をつかみ、血走った眼で睨みつけてくる少年が唐突に現れた。…キモッ!てかブッサ!
たまたま近くにあった片手桶で容赦なく叩く。…相手が霊だからなのか、片手桶は少年を素通りしてバスタブに打つかり激しい音とともに砕け散った。いくつか大きめの破片がバスルームの扉にまで飛んでいったのを視界の端に捉える。
すかさず腕を伸ばし、割れて尖った桶の持ち手を小僧に向かって鋭く突き出す。それは僅か3秒にも満たない早業だった。
ヒッ
小僧が息を漏らした。鋭利な棒が顔面中央に突き刺さったようにも見えるがダメージを負ったようには見えない。霊体ズルぅ〜
仕方がないので洗面器でお湯を掬い、小僧目掛けて雨霰の如く何度もぶっかけることにする。バッシャバッシャと立て続けに反撃されて驚いたのだろうか…小僧は跡形もなく消え失せていた。そしてバスルームの扉に張り付いていたムンク女もいつの間にか姿を消したようだった。はぁ〜?つまんない奴ぅ〜。
脱衣所に出てバスタオルを身体に巻きつける。○○家の食卓で仕入れた裏ワザを使えばタオルがはだけることも無いので安心だ。それともトリビアの○だっけ?…あの頃はちょくちょく服役してたしぃ、記憶が曖昧なんだよね(笑)
洗面台と壁の隙間に立て掛けておいたゴルフクラブを握り締めて戦闘態勢を整える。備えあれば憂いなしってね☆…ま、お化けに打撃攻撃なんて意味ないかもだけどぉ、うちらの商売は舐められたらお終いだしぃ〜。
フンフンと鼻歌を歌いながら家探しを始める。さして広くもないのですぐに終わるだろう。それにしてもマジで金目の物が全然無くてガッカリぃ。シングルマザーっぽいし?こんなもん?
ムンク女と小僧の本体を跨いで通る。コイツら化けて出るの最速すぎでしょ。ヤバくない?
一通り部屋を見て回ったけど誰も出てこない。諦めて成仏した?成仏も最速すぎない?せっかちウケる(笑)
お化けも金も無いなら用は無い。着替えて帰ろ〜。
ピクリとも動かない二人を再び跨ぎ越し、バスルームへと戻る。や〜だぁ、扉閉めてなかった?メンゴメンゴ〜。
何気なくバスルームを覗き込むと、満杯のバスタブの中に誰かが沈んでいるのが見えた。はぁ?
電気を点けて確かめると、それは私だった。はぁ?
はぁ〜?私、死んでんじゃん。マジで!?
なら、私は?幽霊ってことぉ…?マジで!?
ウケる〜(笑)
ゲヒゲヒゲヒゲヒ…と耳を塞ぎたくなるような下卑た笑い声をあげながら振り返ると、ムンク女と小僧がそこに突っ立っていた。恨みがましく睨めつけていたようだが、私と目が合った途端一気に雲散霧消する。
殺人鬼が裸足で逃げ出すような鬼畜スマイルを浮かべた元連続強盗殺人犯に、死してなお標的にされた一般幽霊に怯えるなと言う方が間違っているだろう。彼らの心境は追い詰められた兎のそれと同じだった。
きゃはははははは!待て待て〜♡
その後、晴れて事故物件となるこの家には三体の地縛霊が憑いていると界隈で評判になることが約束されている。女性と少年の霊は比較的あっさりと、むしろ積極的に成仏するのだが…最後の老婆だけは…しぶとく現世にしがみつき、非常に胸糞悪い結末を辿ったことが容易に想像できるだろう。あまりにも奇怪な顛末ゆえに、『キャディさん』という新しい怪談が生み出されて日本全国津々浦々に広がっていくことにもなった。トレードマークはもちろん、彼女が愛用していたゴルフクラブだ。
きゃはははははは〜!!ナイスショット〜♡
心の中くらい、いつまでも若くありたいものです
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