詣でます詣でます
まだ時間があるな。初詣にでも行くか。
家から徒歩で10分の場所にある小さな神社に向かう。
そりゃね、デカくて有名どころの神社にお参りするのもいいよ?でも人が多すぎるわ。神様に会う前に疲弊まっしぐらだろあんなの。
そもそも初詣っつーのはね、お賽銭を放り込んで神様にお願い事をするところじゃないんだよ?…じゃあ何すんのかって?…うーん…一年を無事に生き抜けたことに感謝する…生存報告??神恩感謝っつーの?それよそれ!あと普通に新年の挨拶な!
⛩️
笑えるほど人が居ねえな此処は。小さな神社とは言っても結構メジャーな神様が祀られているってのにさあ。まあ丑三つ刻に参拝しようって物好きもそうそう居ないか。
参道を進み拝殿の前の賽銭箱に100円玉を入れる。身を切るような寒さに悴んだ手で鈴緒を握って本坪鈴を振ると、がろんがろんと鈴とは思えぬ重音が鳴った。どうでもいいが二礼二拍手一礼をして礼拝するたび、神様へ嘆願するのは二拍手の時にするべきなのか一礼の時にするべきなのかで未だに迷うんだよな…
でもまぁ今は自分以外誰も居ないし、遠慮するこたぁねえか。
―――…ってなワケでして、自分これからそいつの家にカチコミかけるんですよ。そいつをどうこうしたって死んだ家族が帰って来るわけじゃないし、そもそもそいつ結構偉い奴らしいんです。こっちの事なんか歯牙にもかけてねえって話だし。…だけどよ、だけど収まらねえんだよ何もかもが。上辺だけの謝罪と金を押し付けてきて全部終わったみたいにされるのは違うよなあ!?俺の家族…女房と子ども達…。轢いた本人も死んでるからそこはもうしょうがないです。でもそいつの親は許せない。金と権力を振りかざして、あった事を無かった事にするのは許せんのです。
精神鑑定の結果?酩酊状態で自動車の運転をしていた事実は無かったことになったのか?無免許運転の事実は?同居している息子の生活状態を知りながら放置していた親の責任はどこに消えたんだ?彼は未成年だったろう!?
幾度となく煮えくり返った腸を再沸騰させる。何も戻ってこなくても構わない…。何もかも捨てても構わない。大切だったものはもう失くなってしまったのだから。
最後の初詣は訣別の儀式だ。これまでの加護に感謝をして、これからの不参拝を詫びるための自分なりのケジメだった。しんしんと雪が降り積もっていく境内を男は滲んだ瞳でただじっと見つめていた。
からんからんからん、からんからんからん
先刻よりもやや澄んだ音を響かせた鈴の下、前触れもなく顕現した煙草の煙のように揺蕩う御方に男は迷うことなく平伏した。言葉など無用とばかりに厳粛なひとときが流れた後、男の身体がぐらりと傾き崩れ落ちる。血の気が失せた白い顔を見るにすでに息絶えているのが明らかだった。
―――祈りを捧げ、命を捧げ、魂を捧げて叶えられる願いがそこにあった。…他人への憎悪に塗れて生きながら朽ちていくなんて死ぬほど嫌だ。だからすべてをあなたに捧げます。全部、全部捧げます。だから、どうかどうか俺に穏やかな死をください―――…家族のもとへ行かせてください…
白い煙のような御方が地面に倒れた男の唇へと吸い込まれていく。かの御仁は決して約束を違えたりしない。息を吹き返した身体を起こし瞼を開いた白煙の御仁は、その紅い微光を湛えた眼で本殿を見据えた。主祭神の許しを得なければ白煙の御仁と言えども勝手は出来ない。暫く待っていると足並みを揃えた武士達が刀を携えてやって来た。助太刀を寄越すとは随分と気前が良い。白煙の御仁は微かに笑んだ。
此処は復讐を誓って果てた者どもが祀られている『かむやしろ』だ。貰い受けたこの身体の主の憎悪の念を決して晴らさずにおくべきものか―――。白煙の御仁が吼えた。
「各々方、討ち入りじゃ!儂について参れ!!」
ああ!百人力さぁ!!
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