雲、生涯レンタルします
灼熱地獄っていうのはさぁ、こういうクソ暑い日が毎日続く場所らしいよね。三十年くらい前の日本の夏もそうだったよって親がよく言うけどさぁ、その頃まだ自分は生まれてないし。知らないのよ全然。
だってそうだろう?現在じゃ生まれたその日のうちに生体チップを埋め込まれてさぁ、健康状態や財政状況を含めた個人情報が丸ごと国に把握されているんだぜ?プライバシーとかプライベートなんて有って無いようなモンじゃん。…まあ、「君にお勧めの職業はコレだッ!!」みたいなポップなノリで仕事をバンバン斡旋してくれるし、最低限の生活環境をガッチリ保証してくれてるから文句は言えないんだけどね。爺ちゃん婆ちゃんに聞いた話だけど昔は無職の人や住所不明の人が居たんだってね?行方不明になったり誘拐されたりもしたって本当に?位置情報なんてすぐに特定出来るじゃん?…生体チップの導入前…?ふぅん…国は何してたのさ??
「あぁ〜暑いな今日は!」例え数分でも、この凄まじい熱を降り注いでくる陽射しに耐えることは出来そうにない。
「Open cloud!」
左手親指に着けたリングタイプのデバイスに向かって一声かけると、目には見えない超極小の穴からモクモクと白い煙が立ち昇ってくる。あれよあれよという間に集合して小さな灰色の雲を形成した後、頭上に程良いスペースで広がってヒンヤリと冷たい日陰を作った。やれやれこれで安心だ…
周りを見渡せば、道行く誰もがこの携帯雲【CARRY CLOUD】を頭上に展開させている。この暑さじゃ当然だろうね。気温はすでに35度を超えているし、まだまだ上昇する予報だったからねぇ。
人類が過酷な暑さに対応するため、ありとあらゆる方策を世界中で試していたというのは学校でも学ぶんだよね。…そして多くの人々が適応出来ずに命を落としていったという悲しい歴史も…でもさぁ、決して短くはない年月を経た現在でも暑さを完璧に制御出来るようになったとは言い難いんだよ。この一見万能そうに見える携帯雲も国から国民に貸与されているレンタル物資だからねぇ。死んだら生体チップと一緒に返納しなきゃならないのよ〜。でもそこは徹底しとかないと、ほら、犯罪者に悪用されたりしちゃ困るじゃん?ちなみに重犯罪者は“チップ”も“雲”も取り上げられて国外追放されちゃうからね!悪い事なんかしちゃダメだよ。国から一歩でも出ると砂漠だぞ〜!
でもね、いつかはその砂漠を超えてみたいな〜って思ってたりするんだよ。いや、ダメなんだけどね。――…砂漠の向こうにあるっていう海を一度でいいからこの眼で見てみたいんだ。爺ちゃん婆ちゃんが言ってたけど、昔の人達って海で泳いだりしてたんでしょ?めちゃくちゃ広くてめちゃくちゃ気持ちいいんだよね?いいなぁ〜。
「Open cloud!」
声がした方を見やると、エプロン姿のおばちゃんが携帯雨雲を巧みに操って窓ガラスの清掃をしていた。店先にチョロチョロと流れていく水もすぐに乾いてしまうだろう。この便利な携帯雲は国民一人にひとつずつ支給されているからね、いざという時…例えば災害時での水物資としても活用することが出来る優れものなんだよ。どんな仕組みなのかは知らないんだけどね。
それにしても暑すぎる。全国民の携帯雲を上空に浮かばせて最大限まで広げたら国全土を覆ったり出来ないのかなぁ?出来ないからやらないんだろうけどさぁ。そもそも人口がメチャクチャ減ってるもんなぁ。その分国土も減ってるけどね。ハハッ
まあ、嘆いて暮らしても埒が明かんからね。ちゃんと勉強して良い会社に務めて、合法的に海を見に行けたならそれで満足だよ。海の向こうはここよりもっと酷い状態らしいし興味が無いからね。でもさ、もし叶うなら…四季って言うんだっけ?夏以外の季節っていうのも一度は体験してみたいもんだよね。いくら水不足や食糧不足から解放されたって言ってもさ、一年中夏ってのもつまらないよ。
春秋冬?なにそれ美味しいの?
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